小杉健治「父からの手紙」

新聞の書評で褒められていたので読んでみた。
幼い頃から可愛がってくれたおじさんのために、株主である青年と政略結婚をしようとする麻美子。

だが、婚約者は何者かに殺害されてしまう。
一方、刑事を殺した罪で刑務所に入っていた男が、刑期を終えて戻ってくる。
殺人の原因となった義姉に会おうとするのだが、亡くなった兄の死因に疑問が出てくる。
関係ないように思われた二つの事件だが、麻美子が離婚して別れたきり会っていない父親の行方を探しはじめたことで、思わぬ接点が…。
タイトルである父からの手紙というのを見て、「由似へ」という古い少女漫画を思い出した。
このまんがを知っている人は、その後の展開も読めてしまうのだが…。
父親の事情というのがちょっと無理やりな気もしたが、最後は親子愛できれいに締めくくった感じ。

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宮部みゆき「希望荘」

杉村三郎シリーズの短編集。
やっぱりこのシリーズは面白い…けど後味が悪い。
杉村三郎は人がいいにもほどがある。

ちゃんと生活できているのか?という疑問に対する答えも、一応この中に書かれているのだった。
私立探偵が向いていないとは言わないけれども、であう事件がことごとく陰惨なんだよなあ。
いや、陰惨は言い過ぎかもしれないけど、ほぼハッピーエンドはありえない。
だからこそ、ちょっとおっとりした三郎のキャラが活きてくるのかもしれないな。

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トネ・コーケン「スーパーカブ」

それほど期待せずに何気なく手に取ったのだが、これが予想外に面白かった。

両親と死に別れ、天涯孤独の小熊。
奨学金で高校に通っていたものの、何の刺激もない毎日を送っていた。
そんなある日、ふとしたことから「スーパーカブ」の中古を格安で手に入れ、小熊の生活は一変する。

同じくカブを愛する同級生と親友になり、文化祭でカブを使ってクラスの窮地を救ったことで、喫茶店の娘とも親しくなり、バイトをしたり遠出をしたり、小熊はカブと一緒の生活を充実させていく。
わたしはバイクには乗ったことがないのだが、読んでいるだけでカブが欲しくなる。
そんなスーパーカブ愛に溢れた本。
故障した場合にどうすればいいのか、冬の寒さの防ぎ方など、実用的な知識も盛り込んであるので、本当に乗っている人にも役立ちそう。

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柳野かなた「最果てのパラディン」

ぶっちゃけ「なろう」発のラノベなのだが、ラノベという評価にしておくにはあまりにも勿体ない。かなり上質なファンタジー。

日本では引きこもりのまま死亡した少年は、異世界に転生してウィルという赤ん坊として生まれ変わる。
だが、そこにいたのは両親ではなく、ミイラの姿をした女性と、戦士の恰好をした骸骨、そして魔術師の幽霊だった…。
ウィルはそれでも、三人の愛情を受けて大きく成長していく。
だが、平和な日々が終わりを告げるときが来て…。

この設定はいかにもラノベっぽいんだけど、生きるとは何か、死とは何かということをかなりきちんと考えていて、そこがスバラシイ。
精一杯生きて、悔いなく死ぬということがいかに大事なことなのか、改めて考えさせられる。
連載は停滞中なのだが、早く続編が読みたい。

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ジャッキー・ドノヴァン「サイモン、船に乗る」

軍艦に乗り込んで、朝鮮戦争に参加した実在の猫のお話。

だが、元ネタは実話だけれども、ストーリーはサイモン視点で進んでいるので、まあほとんどフィクション。
個人的には、フィクションよりもノンフィクションとしてちゃんといろんなエピソードを読みたかったのだが、たぶんそれほど細かいエピソードが残っていなかったので、こういうサイモンの一人称にしたんだろうな。
でも、一匹の猫の存在が、戦争に赴く若者たちの心を癒してくれていたというのが伝わってくる。
猫は偉大だな。
しかし、哀しいことに、帰還後にサイモンはあっという間に病死してしまうのだった。
戦争に行った猫としてすでに有名になっていたので、サイモンのお墓もちゃんとある。

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奥泉光「雪の階」

奥泉光の新作。だが、この人の小説は世界観がいろいろつながっているので、なんというか、登場人物が知っている人のような気がするんだよな。

伯爵家の娘である惟佐子は、親友の宇田川寿子が突然失踪した挙句、心中事件を起こしたことに衝撃を受ける。
旧知のカメラマンである千代子に真相究明を依頼するのだが、その一方で、惟佐子はとあるピアニストに接近されるようになる。その背後には、ある思想集団がいるようだったのだが…。

あーあらすじ書いても伝わらない。
とにかく、この惟佐子という少女の造形がすさまじい。
美しいのだが、頭は完全に理系で、自分の貞操を簡単に捨て去る。
だが、妙な憎めなさがあったりもする。
この惟佐子の周辺が、最終的には二二六事件へとつながっていくんだな、というのは予想ができるのだが、惟佐子自身がどうなるのか全然読めない。
一方で千代子はわかりやすくて、魅力的なので、千代子のパートは安心して読める。
この両者のバランスがさすがに上手い。

この世界観の果てはどこに行きつくんだろうなあ。

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二宮敦人「最後の秘境・東京藝大」

一時話題になった藝大の本。
これがなかなか構成がよく練られていて面白かった。

たぶん、小説家が書いたからこういう構成にできたんだろうなあ。
ただのノンフィクション作家とかだったら、もうちょっと単調な内容になったような気がする。

作者の奥さんは東京藝大の学生で、彫刻専攻なのだが、そのエキセントリックな行動に興味を持った作者は、もっとつわものがいるという藝大に取材することに。
前半は特殊な入学試験方法だとか、藝大を目指すために必要な資質みたいな話なのだが、段々と「芸術とは何か?」という話題になり、最後には東京藝大の音校と美校の調和みたいな感じで終わる。
芸術って、理解しがたいし、美しいばかりじゃないけど、やっぱり面白いな。
と思わせてくれる一冊。

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三浦しをん「ぐるぐる博物館」

三浦しをんの小説が最近あんまり好きじゃなくて、エッセイが読みたいなーと思っていたところに発見。
こんな本も出していたんだな。

要するに、全国の博物館ルポなんだけど。
ややマニアックな博物館ばっかりで、興味のある人には面白いかもしれないけど、縄文とか石とか、博物的な方面に興味がないとそれほど…という感じかも。
個人的には、石ノ森章太郎の記念館に行ってみたいと思った。

だって、エレベーターが「加速装置!」とか「きみはどこにおりたい?」とか言ってくれるらしいんだよ!
アニメの009ファンとしては外せないでしょう。

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藤岡陽子「闇から届く命」

読んでいるときは結構面白いなと思ったのだが、時間が経つと忘れてしまう…そんな内容。
助産師が主人公で、いろいろと問題を抱えている個人の産科病院を舞台に、小さい命を守ろうと助産師や医師が努力するのだが…。

というような。
しかし、途中でミステリー色が強くなって、作品のカラーとしては中途半端になってしまったかも。
でも、素直な筆致なので読みやすい。

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宮内悠介「あとは野となれ大和撫子」

タイトルがすばらしくいい。
タイトルに惹かれて読んだと言っても過言ではなかったのだが…。

両親をテロで失い、アラルスタンという国の後宮に入ったナツキ。
後宮とは名ばかりの、少女のための教育機関だったそこで、ナツキたちは自分たちの夢に向かって勉学に励んでいたのだが、大統領が何者かに暗殺されてしまう。
ほとんど崩壊状態になった議会の代わりに、ナツキたち後宮の少女たちが、アラルスタンの政治を担おうと決意する。
だが、周辺国の様々な思惑に翻弄され…。

う~ん…まあファンタジーなんだよな。
アラルスタンという国も架空だし、後宮の少女が政治家になるというのもムリがあるし、暴力的手段を用いずに何とか混乱を収めようとするその手段も、かなり荒唐無稽だしなあ。
面白い人は面白いんだろうけど、ファンタジーでもなくリアルでもなく、どっちつかずな感じでちょっとわたしには受け入れにくかった。
ご都合主義すぎるところがあるせいかもな。
もうちょっと、悲劇は悲劇としてちゃんと描いてくれれば、ナツキたちの正義ももっと活かされるのになあ。

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