R.J.パラシオ「もうひとつのワンダー」

「ワンダー」というのは、顔に障害を持つオーガストという少年を軸に、彼の周辺の人たちの心情を描いた傑作児童小説なのだが、これはその続編というかスピンオフ。

前作はオーガストはもちろん、その姉とか姉の彼氏とか友人とかクラスメイトとかにフォーカスされていたが、今回はオーガストをいじめていたジュリアンという少年のほか、本作にはあまり登場しなかった三人が取り上げられている。
それぞれがオーガストの存在によって変わったり、変わらなかったりしている中で、ジュリアンの変化のしかたに涙が止まらない。
まあ、ぶっちゃけるとおばあちゃんの過去に関係するのだが、これを出されたら、ジュリアンも反省せざるをえないよな、という壮絶なエピソードが語られる。
この作者の偉いところは、勧善懲悪にしないところだな。
ジュリアンがオーガストをいじめるのには、それなりの理由があり、それを擁護するわけではないけれども、ちゃんと救済を用意してくれているところがスバラシイ。

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王城夕紀「天盆」

うーんうーん面白くないこともないのだが、いろいろ惜しい。

「天盆」という盤上ゲームでの勝者がすべての権力を握ることができる国で、一人の孤児がある夫婦に拾われる。
拾われた子供は「天盆」にちなんで「凡天」と名付けられ、その名に負けぬほど天盆好きの少年へと成長していく。
だが、貧しい飲食店の子でしかない彼が勝ち上がっていくにつれ、権力に目のくらんだ人間たちの策略に巻き込まれていくことになり…。

まず天盆というのが、完全に将棋なんだよね。
これがもうちょっとオリジナリティが混じっているゲームだったら素直にすごいと思えたんだが…、手駒を持てたり相手陣地に入ったら「成る」とか、まんますぎてちょっと興醒め。
それから、主人公たちが天盆に打ち込む様は清々しいのだが、その背後に起きている戦争の話がごちゃごちゃしていて、最後の展開がよくわからなかった。
戦争の方は勝ったの?負けたの?

「青の数学」もそうだったのだが、設定は面白いし、登場人物も魅力的なのだが、いろいろ内省的すぎて、周囲の状況がうやむやになってしまっているんだよね。
そこが惜しい感じ。

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朝霧カフカ「ギルドレ」

「文豪ストレイドッグス」の原作者が書いたというのを後から知ったのだが、「文豪」のコミックスはいまいち乗れなかったものの、こちらは見事にはまってしまった。

記憶を失った少年カイルは、この世界が異星人によって滅ぼされつつあることを知る。
しかし、彼が危機的状況に陥ったとき、奇跡的な能力が発揮される。
それは「あらゆる可能性の中から、自分が望む可能性を選び取る」という、神にも等しい能力だった。
異能ゆえに保護観察下に置かれることになったカイルは、ギルドレ(ギルティチルドレン)と呼ばれる、異星人と戦うためだけに存在する少年少女たちを行動を共にすることになる。

カイルの能力は量子力学的に説明されてはいたものの、まあいわばチートというやつだよね。
ただ面白いのは、起こり得る可能性の中から選ぶことができるだけで、死んだ人をよみがえらせるとか地球を逆回転させるとか、起こりえないことは選択できないというところ。
そのせいで、いろんな奇跡や悲劇が起こることになるので、これからの展開が楽しみなのだが、続きが出る前にアニメ化とかされそうだな。

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柚木朝子「幹事のアッコちゃん」

相変わらずのアッコちゃんシリーズなのだが、今回はちょっと毛色の違う短編が混じっていた。
アッコが経営している会社のゴシップ記事を書くために、取材に訪れた温子。

実は彼女はアッコちゃんの熱烈な信奉者であり、彼女をまねてワゴン販売などに手を染めた過去があった。
しかし、ことごとく失敗してしまったことで、いまではアッコちゃんに劣等感を抱いていた。
ところが、取材に訪れたアッコちゃんの、意外に弱い一面を垣間見て…。

アッコちゃんが決してスーパーウーマンなどではなく、あくまでも悩んだり苦しんだりもする一人の女性だということがわかってしんみりする。
というか、このシリーズはそもそも、アッコちゃんのアドバイスによってすべてがうまく回り出すという、ある意味ご都合主義的な部分があって、それがいいところでもあったんだが、そうそう現実はうまくいかないよ、と作者自身が自分を戒めている感じがあって面白かった。

しかし、アッコちゃんが毎日なにかしら習い事をしているというのにはちょっと心を動かされた。
時間は有限だし、やりたいことをやらないともったいないのよね…。

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今野敏「去就」

楽しみにしていた、隠蔽捜査最新刊。
段々、竜崎のキャラクターに周囲が慣れてきてしまっているので、ハラハラ度が減っているが、面白さは変わらない。

竜崎が署長を務める大森署の管内で、ストーカーによるものと思われる殺人事件が発生。
殺されたのは、ストーカー被害にあっていた女性の知人で、女性は犯人と思しき男に連れ去られてしまう。
竜崎たちは犯人の足取りを追うのだが、事件は意外な展開を見せる。

事件そのものはわりと展開が読める感じで、それほど意外性はなかったのだが、事件の後で、このタイトルの真意がわかる。
「去就」ってそういうことだったのかー。
まあ異動が多いという警察で、いつまでも大森署の署長でいられるわけもないんだけど、戸高とのやりとりとか、すでにおなじみになっているメンバーもいるので、あんまり簡単に異動させないでほしいわ。

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宮部みゆき「悲嘆の門」

予備知識ゼロで読み始めたのだが、こういう内容だったか…。

クマーという、ネットパトロールを行う会社でアルバイトをしている孝太郎。
指を切断するという連続殺人事件が起きているなか、街のビルにあるガーゴイルの像が動いているという奇妙な現象が起こる。
そして、クマーで孝太郎とともに働いていた青年の失踪。
不可思議な事件の裏には、思いもよらない「異世界」の存在があった。

まー要するに、事件の真相を異世界の力を使って知る、という内容。
孝太郎は段々、その異世界の力に頼りすぎるようになって、人間としての本性を失ってしまう。
う~ん…今までも何度か書いたが、宮部みゆきのファンタジーは苦手なのよ…。
今回も、「言葉が実在となる世界」みたいなものが出てくるのだが、その世界観の設定が難しすぎてよくわからない。
わかるのは、孝太郎がちょっと若気の至りすぎるということ。
正義感にあふれているからこそ、しっぺ返しも大きい。
あまりにも青臭くて、ちょっと直視できないんだよなあ。

もしかして、この世界観で続編を書くつもりなのだろうか…。
いろんな登場人物が出てくるのだが、結構中途半端な存在だったりするし。

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石井光太「鬼畜の家」

誰でも新聞で目にしたことのある、親による子殺しの事件を追いかけたルポルタージュ。
あの有名な事件の背景にはこんなことがあるのか…とやるせなくなる。
要するに、子供を殺しても平然としているような親は、自分もそういう親に育てられているという、負の連鎖だったのだな。
しかも、その犯人が住んでいるところが、うちのすぐ近所なんだよな。
まあ治安のいい場所ではないとはわかっていたけど、ここまで「場末感」たっぷりに書かれるとフクザツな気分。
普通に住んでいると、そこまでひどい場所じゃないんだけどな。

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ピエール・ルメートル「傷だらけのカミーユ」

「悲しみのイレーヌ」「その女アレックス」に続く三部作の最後。
という触れ込みだったが、カミーユがとことん報われない。

パリの町中で、宝石店が襲われる事件が発生する。
犯人が出てきたところに鉢合わせし、暴行を受けて瀕死の状態になった女性は、実はカミーユの恋人だった。
カミーユは二人の関係を隠したまま、犯人を捕まえようとするのだが…。

前作でカミーユと独特な絆を築いていたアルマンが、冒頭で病死していることがわかって、ちょっと寂しい。
全体的に「アレックス」に比べると最後の衝撃がやや弱いが、それでも「そういうことだったの!?」とちょっとビックリする。
このままでは終わらない気もするが、どうなんだろう。

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黒川博行「喧嘩(すてごろ)」

安定の二宮&桑原シリーズ。
ストーリーはいつもかなり込み入っていて、今回も途中からよくわからなくなってきた。

学生時代の友人から、選挙で起きたいざこざを解決してほしいと頼まれた二宮。
ヤクザが絡んでいると知り、いやいやながらも桑原に伝手を頼んだのだが、選挙に立候補した政治家の裏を知り、それを使って大金を手にしようとたくらみはじめ…。

今回はシリーズの中ではわりと短い話だった。
もっと破天荒になってもいい感じだが、桑原がまたヤクザに復帰しそうなので、そうなったらまた派手にやらかしてくれるかもしれない。

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リチャード・アダムズ「ウォーターシップダウンのウサギたち」

「ザ・スタンド」でこの本に関する記述があり、ちょっと興味を持って読んでみた。
読んでみてビックリ。

とある丘に平和に暮らしていたウサギたちだが、ある日、預言者としての素質を持つファイバーが「早くここから出ていかないと大変なことになる」と告げる。
それを信じて群れを抜け出たのは、ヘイゼルをはじめとするウサギたち数匹だった。
ウサギにとってはあまりにも長い長い旅が始まった…。

なにがビックリしたといって、「冒険者たち」(ガンバの冒険)とあまりにもそっくりで。
絶対どっちかがどっちかをパクっている!と思った。

類似点その1、仲間たちがそれぞれの特性を生かして旅をするところ。
喧嘩っ早い仲間とか、頭がいい仲間とか、物語を語るのがうまい仲間とか…そっくり。

類似点その2、途中で別の群れと出会うのだが、彼らは人間に依存して生活していた…みたいなのが発覚するところ。
多少の犠牲者には目をつぶって、人間が与えてくれる食べ物で安穏と暮らしているフリをする。というのも両方にあった。

類似点その3、別の動物の助けを借りる。しかもどっちも鳥。これがかなり決定的。
鳥を助けることによって、最終的にはその手助けを得るというのも、まるっきりおんなじ。

ところが!さらにビックリしたことに、両方の作品がまったく同じ年に発行されているということが判明。つまり偶然の一致だというわけ。
1974年だったかな。
こういうのが流行る時代だったのか?
どっちもいい話だけどな。

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