河崎秋子「颶風の王」

ほおお…こういう話を女性が書くというのはなかなか。
頼もしいというか何というか。

貧しい生活を抜け出して北海道へと旅立とうとする捨造
彼には気がふれてしまっている母親がいた。
すでに会話もおぼつかないと思っていた母親から送られた手紙には、自分が母親のおなかにいたときの衝撃的な出来事が綴られていた。
それが、彼の血筋と馬との因縁の始まりだった…。
まあ母親の話が正直凄絶。
ネタバレしてしまうと、雪の中に愛馬とともに埋もれてしまった母親は生きるために、馬を殺して食べて、その腹を割いてその中に入って生きながらえたという。
前に湯布院にいったときに馬車に乗ったんだけど、馬の目を真正面から見ちゃいけないと注意されたのを思い出した。
いくら馴らされていても、動物は動物なんだよな。

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パトリック・ロスファス「風の名前」

新年一冊目はこちらのファンタジー。

とある料亭の主人コート。
だが彼はかつて「王殺し」と呼ばれた魔術師クォートだった。
彼のもとに紀伝家が現れ、コートはかつでクォートだった自分の過去を語り始める…。

とりあえず今5巻まで出ているんだが、これ1巻だけでやめてしまった人もいるだろうなあ。
序盤の話の前置きが長くて、意味が不明なので面白さがわかりにくい。
2巻からクォートの冒険が本格的に始まるところから俄然面白くなってくるんだけど。
ただ、こういうファンタジーにつきものの「女とのいざこざ」がなあ。
ファムファタル的な少女が現れるんだけど、こいつに結構振り回されるクォートに限りなく不安が…。
そして5巻まで来てもまだ全然序章だという。
全然本題に入る前だから、これからどうなるのか…。
早く続きを出して欲しいわ。

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R・D・ウィングフィールド「フロスト始末」

フロストシリーズの最終話。
というのも、作者が死んでしまったから…。

もう二度とフロストに会えないのかと思うと悲しい。
別の作家が続きを書いているらしいが、それってもう別の話だよな。

今回のフロストは、交通費をちょろまかしていることがとうとう上司にばれて、今度こそ本当に異動させられそうになる。
だが、町では少女たちの失踪が相次ぎ、ついには死体が発見される。
犠牲になった一人の少女の父親は小児性愛者だったために、フロストはあやしいと睨むのだが…。

フロストがとにかく下ネタ満載のおっさんなので、悲惨な事件があってもあんまり悲惨な感じがしないのだが、今回の終わり方はさすがにちょっと悲惨な感じだった。
能天気な警察署のようでいて、実はけっこう警察内部にもいろいろ起きているんだよな。
なので、シリーズの最後の締めくくりとしては、逆にこれでよかったのかもしれない。
でもやっぱり続きが読みたかったなあ。

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キンバリー・ブルベイカーブラッドリー「わたしがいどんだ戦い1939年」

なんとも切なくて苦しい話。

でも最後は大団円。

生まれつき足が内反足という障害を持っていたために、母親から家から一歩も出ることを許されずに育ったエイダ。
ある時、空襲を避けるために子どもたちが疎開するという話を聞き、必死に歩く練習をして、母親に黙って弟と二人で一緒に疎開することを決意する。
そして疎開先で出会ったのは、ポニーと暮らすちょっと風変わりなスーザンという女性だった。
気が進まないと言いながらも、スーザンは何かとエイダと弟の世話を焼いてくれて、エイダは初めて触れる優しさに戸惑い、それを拒絶しようとするのだが…。

この母親が本当にひどい。
でもいるんだろうなあ、こういう人。
エイダの障害は生まれてすぐに治療すれば治るものだったのに、「奇形のお前はそんな価値がない」みたいに放置。完全なネグレクト状態。
そして不器用なスーザンのもとで、エイダが少しずつ心を開いていくところは感動。
ええ話や。

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伊坂幸太郎「ホワイトラビット」

泥棒の黒澤が登場するシリーズ。
とある家で人質立てこもり事件が発生。
犯人は一家三人を人質に、家に立てこもるのだが、実はそこには泥棒に入っていた黒澤が居合わせていた。
仕方なく、父親のふりをする黒澤だったが、ほかの母と子にも何やら秘密があるようで…。

かなり入り組んだ設定のミステリ。
途中でよくわけがわからなくなったが、それにしてもよくできている。
こういう発想がどこから浮かぶんだろう。
まあ個人的には、発想うんぬんより、いつものおなじみのメンバーが登場するのが嬉しいんだが。
黒澤みたいに常にクールなキャラは大好きです。

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若林正恭「ご本、出しときますね」

BSでやっていた番組の書籍化。
オードリーの若林が、いろんな作家二人と鼎談するという内容。

作家たちの赤裸々な一面が垣間見られて面白い。
これ、テレビで見たかったなあ。

とにかく、若林が思った以上に読書家だということがよくわかった。
登場している作家たちの作品はもちろんだが、それ以外の作品もよく読んでいる。
負けたかも…。
作家たちも一筋縄でいかないキャラクターで面白い。
ただ、角田光代だけはどうにも生理的に受け付けない感じだった。
九九ができないとか…なんかこう、エキセントリックな自分に酔っている感じがするんだよな。
そして、村田沙耶香も想像以上に変人だった。
やっぱりこのぐらいじゃないと、作家にはなれないのかもしれない。

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藤岡陽子「晴れたらいいね」

ラノベとかではありがちな、タイムスリップもの。
だが、そこにあるのはひらすらリアルな戦争の世界。

看護師の沙穂が夜勤をしているとき、とある入院患者のそばで地震に襲われる。
沙穂が目覚めたときにいたのは自分の病院ではなく、野戦病院だった。
沙穂は入院患者だった老婆の過去にタイムスリップしていたのだった。
太平洋戦争末期のサイパンで、沙穂は仲間の看護師たちと励まし合いながら、何とか生き抜こうと努力するのだが、戦況は悪化するばかりで…。

現代的な知識が役に立つということもなく、看護師としての経験が生きる場面もあるがそれがメインでもなく、むしろ現代人の「生に対する考え方」が、当時の人たちに影響を与える、というところが主眼かもしれない。
「晴れたらいいね」は沙穂が歌うドリカムの歌。
最初はみんな「へんな歌だ」と笑っているのだが、段々その歌で励まし合うようになる…という泣けるエピソード。

最後がちょっとうまくいきすぎな感じがなくもないが、途中が結構悲惨なのでこのぐらいはサービスしてもよかろう。

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飛浩隆「自生の夢」

SF作家というのは、生まれながらにしてSF作家なんだろうな。
素人がいくらSF的な発想を思いつこうとしても、それはラノベレベルであって、本当のSF作家の発想に及ぶことは絶対にない。
というぐらい、突拍子もない設定のSF短編集。

かろうじて理解できたのは最初の話ぐらいなのだが、何やら理解不能なものに浸食されてしまってほとんど人間が存在しなくなってしまった世界で、「音」で水際に呼び寄せたものでかろうじて生き延びている人たち。
だがその小さな世界も、浸食されていなくなったはずの「夫」が妻を探すために呼び寄せられてきてしまったために、たちまち崩壊へと陥る…。
という、わかったようなわからないような話。

それから、生まれながらにして考えたことを詩として紡ぎ出すことができる装置が存在する近未来において、世界最高の詩人と呼ばれた少女の運命を描いた連作集。
これもしくみがまったく理解できんくてな…。
これを読むと、少なくともSF作家にはなれないと思うわ。

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青柳いづみこ「ショパン・コンクール」

なんとなく手に取ってみた本なのだが、これが予想外に面白かった。
ノンフィクションである。

2015年に行われた「ショパン・コンクール」の進行を描くとともに、ショパンの生涯やショパン・コンクールの誕生とその歴史などをバランスよく配置した一冊。

作者はもちろんピアニストなのだが、コンクールの参加者一人ひとりの演奏を事細かに報告しており、聞いていなくてもどんな演奏だったかがわかるというのがスバラシイ。
これは聞く耳を持っているだけでなく、それを描写する能力がないとできない。
と思っていたら、この作者は「六本指のゴルトベルグ」の作者だったんだね。
なんか賞を取っていたはず。さもありなん。

ショパン・コンクールというとブーニンぐらいしか思い出せないわたしだが、中学時代に吹奏楽コンクールに出場したこともあり、音楽のコンクールがどんなものかというのは何となくわかる。
要するに「好み」なんだよね。ぶっちゃけて言うと。
ある程度技術的な部分をクリアできたあとは、どんな演奏が好きかという審査員の好みに左右されてしまうところがある。
それを作者も指摘していて、本来はショパンらしい演奏が評価されるべきなのだが、じゃあショパンらしい演奏って何?という基準が揺らいでいるというジレンマ。
本当に、音楽って難しいな。

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パトリック・ネス「怪物はささやく」

映画化されたことで興味を持ったのだが、結局映画の方は見なかった。
「パンズ・ラビリンス」を撮影した監督だというので、あの映画はトラウマになっているしなあ…。

コナーは母親と二人暮らしだが、母親は癌に冒されていて、気丈にふるまってみせるものの、ほとんど臥せっている状態。

それを知ってか知らずか、クラスメイトの一人がコナーをいじめはじめるが、なぜかコナーは全く抵抗しない。
それどころか、かばってくれた幼なじみを突き放すような言動を取る。
そんなある日、コナーのところに、「イチイの木」を名乗る怪物が現れる。
その怪物は、コナーに「3つの話を聞かせるから、4つめはお前が話せ」という。
そして語り出した物語は…。

原作は夭折した作家のアイデアを元にしているということだが、3つの物語部分がそうなのか、ちょっとよくわからなかった。
コナーの苦悩は少年には重荷かもしれないけど、それほど重罪ということでもないので、ちょっと拍子抜けかもしれない。
でも最後に自分の物語を語るところで涙なみだ。

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