エリザベス・ウェイン「コードネーム・ヴェリティ」

第二次世界大戦の最中、スパイ容疑でナチスに捕らわれたイギリス軍のとある女性。
彼女はナチスに捕らわれるまでの経緯を、すべて小説のように書き記していた。
誰かに読まれるとは限らないその小説のような手記には、重要な情報がかくされていて…。

全体として手記の部分の第一部、それからそれが反転する第二部という構造となっている。
前半は小説仕立てというだけあって、その回想の中で誰が本当にその書き手なのかが、すぐにはわからないようになっている。
しかしそのある意味回りくどい手法が、第二部で生きてくるという仕掛け。

だが、やっぱり救いがあるようなないような、微妙な結末だよな。

ナチスが絡んで、ハッピーエンドになる訳がないのだが、だからといって絶望的な終わり方ということでもない。
これが精いっぱいのリアルな着地点ということなんだろう。

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スティーブン・キング「ファインダーズ・キーパーズ」

「ミスター・メルセデス」の続編。
刑事を退職して、私立探偵を始めたホッジズ。
前作で協力してくれた少女の友人から持ち込まれた依頼は、兄の挙動不審の原因を探ってほしいというものだった。
その兄は、ほんのささいなきっかけから大金を入手してしまうのだが、実はその背景にはある作家の殺人事件が絡んでいて…。

とにかく、この兄のピートが可哀そうっちゃ可哀そうなんだけど、運が悪すぎ。
こんなに都合よく運が悪いことってある?
まあキングはその辺り周到に、偶然ではなくて必然っぽく描いているけど。
とりあえず、読んでいて「志村!うしろうしろ!」と言いたくなる感じ。

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ジョージ・ソーンダーズ「リンカーンとさまよえる霊魂たち」

なんというか、面白い。
小説ってまだまだ新しいことができるんだ!という大いなる発見の一冊。

とある墓地でさまよえる霊魂たちは、幼くして亡くなったリンカーンの息子がここにやって来たことを知る。
リンカーンの、息子へのあまりに強い愛情にほだされた霊魂たちは、なんとか息子を次の世界に送り出そうとするのだが…。

なんというか、あらすじだけ書くとつまらないな。
とにかくこの小説の肝は文体にある。
様々な歴史的資料からの抜粋と、それから霊魂たちのモノローグを交互にして、一種異様な雰囲気を作り出している。

でもそれが、この小説の展開にマッチしているんだな。
なんというか、ハッピーエンドとかバッドエンドとかそういうストーリーではなく、とにかく小説を楽しみたい人向け。
でもこれは画期的な一冊ですよ。

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西加奈子「サラバ!」

以前は年末にアクセス数とかカウントしてたんだが、なんだかアクセス解析が難しくなってよくわからなくなったので最近やってない。

でも、八月に異常にアクセスされてたんだがあれは何だったんだろう…。
傾向としては、あんまり売れてない無名の作品は、やっぱり情報が少ないので、このブログに辿り着く人が多いらしいということ。
ベストセラーの情報を知るのに、こんな過疎ブログを使うやつはいないな。
ということで、直木賞を受賞した超ベストセラーで今年をしめます。
ただ、個人的な感想は、「読んでてツライ」。
この一言に尽きる。
イランで生まれた少年・歩。強烈な個性を持った姉に脅かされながら、それでも外見と要領の良さとで人生をうまく乗りこなしているように思えた。
だが、姉のあまりにもエキセントリックな行動と両親の離婚によって、次第に様々な障害にぶつかるようになり…。
とにかく、90%ぐらいは読んでいてつらい。
あー辛い。
こういう家族がいるとつらいよね。
姉も悪気はないのだが、どうしても人生に不器用で、それに周囲を巻き込んでいってしまうタイプ。
ところが、姉がある意味解脱するのと入れ替わるようにして、今度は歩に様々な困難が降りかかる。
主人公に肩入れして読んでいるので、それがあまりにもなあ…。
もちろん、最後の最後にはすべてが昇華されるような展開がある訳だが、そこまでが辛くて、とにかく長い小説なので、そこまで耐えられるかが正念場。
しかしまあ、年の終わりに紹介するにはちょうどいい本かな。
サラバ!

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梶尾真治「つばき、時跳び」

タイムトラベルものSF。
作家としてなかなか次作ができない井納は、椿が植えられている古い家屋に住むことになる。
しかしこの屋敷には「女の幽霊が出る」という噂があった。
井納は屋敷に不思議な装置があるのを発見し、女の幽霊というのが、実は江戸時代からやってきた「つばき」という女性だということを知る。
二人は時を越えて心を通わせるようになり…。
メインのストーリーはタイムトラベルというよりも、お互いの異文化コミュニケーションという感じがした。
つばきが現代に飛ぶときと、井納が江戸時代に飛ぶときとが交互に描かれるのだが、そこが面白いと言えば面白い。
だが、SFとしてはやや展開が弱いかもしれない。
タイムトラベルの仕組みがちょっとご都合主義な感じ。
でもつばきがかわいいし、ハッピーエンドなので赦すわ。

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浅生鴨「伴走者 」

視覚障害者のアスリートたちを導く伴走者。

マラソンとスキーという二つのスポーツで、それぞれ視覚障害者の選手と、その伴走者を務めることになる人たちの、特殊な結びつきを描く。
これから東京オリンピック・パラリンピックに向けて、ぜひとも読んでおきたい一冊。
ものすごいドラマがあるわけではないし、カタルシスもないのだが、あまり知られていない障害者スポーツの世界が垣間見られて興味深い。
特に、スキーにも視覚障碍者が参加しているというのは知らなかった。
マラソンと違って一つ間違えば大事故になるのに、怖くないのだろうか…。
主人公は伴走者なのだが、視覚障碍者それぞれの立場も丁寧に描いているので好感が持てた。

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小杉健治「父からの手紙」

新聞の書評で褒められていたので読んでみた。
幼い頃から可愛がってくれたおじさんのために、株主である青年と政略結婚をしようとする麻美子。

だが、婚約者は何者かに殺害されてしまう。
一方、刑事を殺した罪で刑務所に入っていた男が、刑期を終えて戻ってくる。
殺人の原因となった義姉に会おうとするのだが、亡くなった兄の死因に疑問が出てくる。
関係ないように思われた二つの事件だが、麻美子が離婚して別れたきり会っていない父親の行方を探しはじめたことで、思わぬ接点が…。
タイトルである父からの手紙というのを見て、「由似へ」という古い少女漫画を思い出した。
このまんがを知っている人は、その後の展開も読めてしまうのだが…。
父親の事情というのがちょっと無理やりな気もしたが、最後は親子愛できれいに締めくくった感じ。

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宮部みゆき「希望荘」

杉村三郎シリーズの短編集。
やっぱりこのシリーズは面白い…けど後味が悪い。
杉村三郎は人がいいにもほどがある。

ちゃんと生活できているのか?という疑問に対する答えも、一応この中に書かれているのだった。
私立探偵が向いていないとは言わないけれども、であう事件がことごとく陰惨なんだよなあ。
いや、陰惨は言い過ぎかもしれないけど、ほぼハッピーエンドはありえない。
だからこそ、ちょっとおっとりした三郎のキャラが活きてくるのかもしれないな。

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トネ・コーケン「スーパーカブ」

それほど期待せずに何気なく手に取ったのだが、これが予想外に面白かった。

両親と死に別れ、天涯孤独の小熊。
奨学金で高校に通っていたものの、何の刺激もない毎日を送っていた。
そんなある日、ふとしたことから「スーパーカブ」の中古を格安で手に入れ、小熊の生活は一変する。

同じくカブを愛する同級生と親友になり、文化祭でカブを使ってクラスの窮地を救ったことで、喫茶店の娘とも親しくなり、バイトをしたり遠出をしたり、小熊はカブと一緒の生活を充実させていく。
わたしはバイクには乗ったことがないのだが、読んでいるだけでカブが欲しくなる。
そんなスーパーカブ愛に溢れた本。
故障した場合にどうすればいいのか、冬の寒さの防ぎ方など、実用的な知識も盛り込んであるので、本当に乗っている人にも役立ちそう。

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柳野かなた「最果てのパラディン」

ぶっちゃけ「なろう」発のラノベなのだが、ラノベという評価にしておくにはあまりにも勿体ない。かなり上質なファンタジー。

日本では引きこもりのまま死亡した少年は、異世界に転生してウィルという赤ん坊として生まれ変わる。
だが、そこにいたのは両親ではなく、ミイラの姿をした女性と、戦士の恰好をした骸骨、そして魔術師の幽霊だった…。
ウィルはそれでも、三人の愛情を受けて大きく成長していく。
だが、平和な日々が終わりを告げるときが来て…。

この設定はいかにもラノベっぽいんだけど、生きるとは何か、死とは何かということをかなりきちんと考えていて、そこがスバラシイ。
精一杯生きて、悔いなく死ぬということがいかに大事なことなのか、改めて考えさせられる。
連載は停滞中なのだが、早く続編が読みたい。

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