藤岡陽子「晴れたらいいね」

ラノベとかではありがちな、タイムスリップもの。
だが、そこにあるのはひらすらリアルな戦争の世界。

看護師の沙穂が夜勤をしているとき、とある入院患者のそばで地震に襲われる。
沙穂が目覚めたときにいたのは自分の病院ではなく、野戦病院だった。
沙穂は入院患者だった老婆の過去にタイムスリップしていたのだった。
太平洋戦争末期のサイパンで、沙穂は仲間の看護師たちと励まし合いながら、何とか生き抜こうと努力するのだが、戦況は悪化するばかりで…。

現代的な知識が役に立つということもなく、看護師としての経験が生きる場面もあるがそれがメインでもなく、むしろ現代人の「生に対する考え方」が、当時の人たちに影響を与える、というところが主眼かもしれない。
「晴れたらいいね」は沙穂が歌うドリカムの歌。
最初はみんな「へんな歌だ」と笑っているのだが、段々その歌で励まし合うようになる…という泣けるエピソード。

最後がちょっとうまくいきすぎな感じがなくもないが、途中が結構悲惨なのでこのぐらいはサービスしてもよかろう。

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飛浩隆「自生の夢」

SF作家というのは、生まれながらにしてSF作家なんだろうな。
素人がいくらSF的な発想を思いつこうとしても、それはラノベレベルであって、本当のSF作家の発想に及ぶことは絶対にない。
というぐらい、突拍子もない設定のSF短編集。

かろうじて理解できたのは最初の話ぐらいなのだが、何やら理解不能なものに浸食されてしまってほとんど人間が存在しなくなってしまった世界で、「音」で水際に呼び寄せたものでかろうじて生き延びている人たち。
だがその小さな世界も、浸食されていなくなったはずの「夫」が妻を探すために呼び寄せられてきてしまったために、たちまち崩壊へと陥る…。
という、わかったようなわからないような話。

それから、生まれながらにして考えたことを詩として紡ぎ出すことができる装置が存在する近未来において、世界最高の詩人と呼ばれた少女の運命を描いた連作集。
これもしくみがまったく理解できんくてな…。
これを読むと、少なくともSF作家にはなれないと思うわ。

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青柳いづみこ「ショパン・コンクール」

なんとなく手に取ってみた本なのだが、これが予想外に面白かった。
ノンフィクションである。

2015年に行われた「ショパン・コンクール」の進行を描くとともに、ショパンの生涯やショパン・コンクールの誕生とその歴史などをバランスよく配置した一冊。

作者はもちろんピアニストなのだが、コンクールの参加者一人ひとりの演奏を事細かに報告しており、聞いていなくてもどんな演奏だったかがわかるというのがスバラシイ。
これは聞く耳を持っているだけでなく、それを描写する能力がないとできない。
と思っていたら、この作者は「六本指のゴルトベルグ」の作者だったんだね。
なんか賞を取っていたはず。さもありなん。

ショパン・コンクールというとブーニンぐらいしか思い出せないわたしだが、中学時代に吹奏楽コンクールに出場したこともあり、音楽のコンクールがどんなものかというのは何となくわかる。
要するに「好み」なんだよね。ぶっちゃけて言うと。
ある程度技術的な部分をクリアできたあとは、どんな演奏が好きかという審査員の好みに左右されてしまうところがある。
それを作者も指摘していて、本来はショパンらしい演奏が評価されるべきなのだが、じゃあショパンらしい演奏って何?という基準が揺らいでいるというジレンマ。
本当に、音楽って難しいな。

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パトリック・ネス「怪物はささやく」

映画化されたことで興味を持ったのだが、結局映画の方は見なかった。
「パンズ・ラビリンス」を撮影した監督だというので、あの映画はトラウマになっているしなあ…。

コナーは母親と二人暮らしだが、母親は癌に冒されていて、気丈にふるまってみせるものの、ほとんど臥せっている状態。

それを知ってか知らずか、クラスメイトの一人がコナーをいじめはじめるが、なぜかコナーは全く抵抗しない。
それどころか、かばってくれた幼なじみを突き放すような言動を取る。
そんなある日、コナーのところに、「イチイの木」を名乗る怪物が現れる。
その怪物は、コナーに「3つの話を聞かせるから、4つめはお前が話せ」という。
そして語り出した物語は…。

原作は夭折した作家のアイデアを元にしているということだが、3つの物語部分がそうなのか、ちょっとよくわからなかった。
コナーの苦悩は少年には重荷かもしれないけど、それほど重罪ということでもないので、ちょっと拍子抜けかもしれない。
でも最後に自分の物語を語るところで涙なみだ。

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R.J.パラシオ「もうひとつのワンダー」

「ワンダー」というのは、顔に障害を持つオーガストという少年を軸に、彼の周辺の人たちの心情を描いた傑作児童小説なのだが、これはその続編というかスピンオフ。

前作はオーガストはもちろん、その姉とか姉の彼氏とか友人とかクラスメイトとかにフォーカスされていたが、今回はオーガストをいじめていたジュリアンという少年のほか、本作にはあまり登場しなかった三人が取り上げられている。
それぞれがオーガストの存在によって変わったり、変わらなかったりしている中で、ジュリアンの変化のしかたに涙が止まらない。
まあ、ぶっちゃけるとおばあちゃんの過去に関係するのだが、これを出されたら、ジュリアンも反省せざるをえないよな、という壮絶なエピソードが語られる。
この作者の偉いところは、勧善懲悪にしないところだな。
ジュリアンがオーガストをいじめるのには、それなりの理由があり、それを擁護するわけではないけれども、ちゃんと救済を用意してくれているところがスバラシイ。

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王城夕紀「天盆」

うーんうーん面白くないこともないのだが、いろいろ惜しい。

「天盆」という盤上ゲームでの勝者がすべての権力を握ることができる国で、一人の孤児がある夫婦に拾われる。
拾われた子供は「天盆」にちなんで「凡天」と名付けられ、その名に負けぬほど天盆好きの少年へと成長していく。
だが、貧しい飲食店の子でしかない彼が勝ち上がっていくにつれ、権力に目のくらんだ人間たちの策略に巻き込まれていくことになり…。

まず天盆というのが、完全に将棋なんだよね。
これがもうちょっとオリジナリティが混じっているゲームだったら素直にすごいと思えたんだが…、手駒を持てたり相手陣地に入ったら「成る」とか、まんますぎてちょっと興醒め。
それから、主人公たちが天盆に打ち込む様は清々しいのだが、その背後に起きている戦争の話がごちゃごちゃしていて、最後の展開がよくわからなかった。
戦争の方は勝ったの?負けたの?

「青の数学」もそうだったのだが、設定は面白いし、登場人物も魅力的なのだが、いろいろ内省的すぎて、周囲の状況がうやむやになってしまっているんだよね。
そこが惜しい感じ。

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朝霧カフカ「ギルドレ」

「文豪ストレイドッグス」の原作者が書いたというのを後から知ったのだが、「文豪」のコミックスはいまいち乗れなかったものの、こちらは見事にはまってしまった。

記憶を失った少年カイルは、この世界が異星人によって滅ぼされつつあることを知る。
しかし、彼が危機的状況に陥ったとき、奇跡的な能力が発揮される。
それは「あらゆる可能性の中から、自分が望む可能性を選び取る」という、神にも等しい能力だった。
異能ゆえに保護観察下に置かれることになったカイルは、ギルドレ(ギルティチルドレン)と呼ばれる、異星人と戦うためだけに存在する少年少女たちを行動を共にすることになる。

カイルの能力は量子力学的に説明されてはいたものの、まあいわばチートというやつだよね。
ただ面白いのは、起こり得る可能性の中から選ぶことができるだけで、死んだ人をよみがえらせるとか地球を逆回転させるとか、起こりえないことは選択できないというところ。
そのせいで、いろんな奇跡や悲劇が起こることになるので、これからの展開が楽しみなのだが、続きが出る前にアニメ化とかされそうだな。

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柚木朝子「幹事のアッコちゃん」

相変わらずのアッコちゃんシリーズなのだが、今回はちょっと毛色の違う短編が混じっていた。
アッコが経営している会社のゴシップ記事を書くために、取材に訪れた温子。

実は彼女はアッコちゃんの熱烈な信奉者であり、彼女をまねてワゴン販売などに手を染めた過去があった。
しかし、ことごとく失敗してしまったことで、いまではアッコちゃんに劣等感を抱いていた。
ところが、取材に訪れたアッコちゃんの、意外に弱い一面を垣間見て…。

アッコちゃんが決してスーパーウーマンなどではなく、あくまでも悩んだり苦しんだりもする一人の女性だということがわかってしんみりする。
というか、このシリーズはそもそも、アッコちゃんのアドバイスによってすべてがうまく回り出すという、ある意味ご都合主義的な部分があって、それがいいところでもあったんだが、そうそう現実はうまくいかないよ、と作者自身が自分を戒めている感じがあって面白かった。

しかし、アッコちゃんが毎日なにかしら習い事をしているというのにはちょっと心を動かされた。
時間は有限だし、やりたいことをやらないともったいないのよね…。

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今野敏「去就」

楽しみにしていた、隠蔽捜査最新刊。
段々、竜崎のキャラクターに周囲が慣れてきてしまっているので、ハラハラ度が減っているが、面白さは変わらない。

竜崎が署長を務める大森署の管内で、ストーカーによるものと思われる殺人事件が発生。
殺されたのは、ストーカー被害にあっていた女性の知人で、女性は犯人と思しき男に連れ去られてしまう。
竜崎たちは犯人の足取りを追うのだが、事件は意外な展開を見せる。

事件そのものはわりと展開が読める感じで、それほど意外性はなかったのだが、事件の後で、このタイトルの真意がわかる。
「去就」ってそういうことだったのかー。
まあ異動が多いという警察で、いつまでも大森署の署長でいられるわけもないんだけど、戸高とのやりとりとか、すでにおなじみになっているメンバーもいるので、あんまり簡単に異動させないでほしいわ。

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宮部みゆき「悲嘆の門」

予備知識ゼロで読み始めたのだが、こういう内容だったか…。

クマーという、ネットパトロールを行う会社でアルバイトをしている孝太郎。
指を切断するという連続殺人事件が起きているなか、街のビルにあるガーゴイルの像が動いているという奇妙な現象が起こる。
そして、クマーで孝太郎とともに働いていた青年の失踪。
不可思議な事件の裏には、思いもよらない「異世界」の存在があった。

まー要するに、事件の真相を異世界の力を使って知る、という内容。
孝太郎は段々、その異世界の力に頼りすぎるようになって、人間としての本性を失ってしまう。
う~ん…今までも何度か書いたが、宮部みゆきのファンタジーは苦手なのよ…。
今回も、「言葉が実在となる世界」みたいなものが出てくるのだが、その世界観の設定が難しすぎてよくわからない。
わかるのは、孝太郎がちょっと若気の至りすぎるということ。
正義感にあふれているからこそ、しっぺ返しも大きい。
あまりにも青臭くて、ちょっと直視できないんだよなあ。

もしかして、この世界観で続編を書くつもりなのだろうか…。
いろんな登場人物が出てくるのだが、結構中途半端な存在だったりするし。

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